昨年度あたりからあまりにも横暴している悪質業者の訪問行為! 屋根に上がって壊したり、落ちてもいない釘をあらかじめ用意した錆びた釘などを見せ強引に契約を結ぶ。そんな行為は許せるものではないので、皆さんに防衛策としてクーリングオフの記事を紹介いたします。
「クーリングオフ」とは、訪問販売など特定の取引について、一定の条件・期間内であれば消費者が無条件で契約を解除できる制度です。実際クーリングオフと聞いても、なんとなくでしか意味を理解していない方も多いのではないでしょうか。
インターネットなどで、外壁塗装の契約トラブルに関する書き込みや口コミなどを見たことがある方もいらっしゃるかと思います。
そのようなトラブルを未然に防いで安心して外壁塗装を行うためにも、消費者側も正しい知識を知っておく必要があります。
今回は、クーリングオフを専門とする行政書士の先生にお伺いした、クーリングオフの定義や、外壁塗装の契約を行う際に注意したいチェックポイントについてまとめました。
【監修】行政書士 吉田安之(プロフィールは本記事の最後で紹介しています)
目次
訪問販売の定義とは
訪問販売とは、販売業者または役務(サービス)提供事業者が、申込者もしくは購入者または役務提供を受けるものに対し、原則、営業所以外の場所において(例外としてキャッチセールスやアポイントメントセールス等の場合は営業所等も該当)、商品やサービス等の契約の申込を受け、または契約を締結して行うことが要件になります。「営業所等」とは、基本的には店舗や事務所などが当たりますが、露店や屋台、自動販売機なども該当します。
訪問時から契約までのチェックポイント
クーリングオフを正しく知るためには、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」とする)について知っておくことが大切です。
特定商取引法とは、事業者による違法・悪質な行為を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
訪問時から契約段階まで、事業者に定められている義務や禁止行為についてご紹介します。
契約の勧誘を行う場合は「氏名等表示義務」がある
訪問販売において契約の勧誘を行う場合は「氏名等表示義務」が特定商取引法第3条で定められています。
~販売業者は、訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先だって、事業者名、勧誘目的、商品等の種類を明示しなければならない。~
つまり、訪問販売をする際は、何よりも真っ先に「私は株式会社〇〇(事業者名)です。」「今回は外壁塗装工事の契約を勧めに参りました。(勧誘目的、商品等の種類の明示)」と告げなければいけません。
これは訪問販売のアポイントを電話でとる場合も同様で、電話の冒頭で同様に告げないといけません。
また会社名は商号を告げないといけませんので、屋号だけを告げることもいけません。
次に、「勧誘を受ける意思の確認、拒否者への勧誘禁止(特定商取引法第3条の2)」ですが、
~販売業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手方に対して、勧誘を受ける意思があることを確認するように努めなければならない。~
氏名等の表示義務を告げた後に、その商品等について「勧誘をしてよいかどうか?」確認するように努める義務があります。
具体的には「これから外壁塗装工事の内容についてご説明させていただきたいのですが、今ご説明してもよろしいでしょうか?」などです。
これは、明確な承諾の回答を受ける必要がありますので、相手が拒否しなかったらOKということにはなりません。
拒否された場合の再勧誘は禁止されている
拒否された場合の再勧誘も禁止されています(特定商取引法第3条の2第2項)。
~販売業者は、訪問販売に係る売買契約または役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した消費者に対し、その契約の締結を勧誘をしてはならない。~
「営業は断られてナンボ」なんて言葉もありますが、訪問販売では断られたら再度勧誘をしてはいけません。
この「拒否」ですが、消費者の拒否の意思を尊重するということが法令の趣旨なので、消費者が特定の商品に限ってとか、ある期間に限って拒否した場合は、その範囲が禁止の対象となります。
- このA社の塗料は気に入らないからこれは断る。 → 別のB社の塗料に関しては良い。
- 塗装工事全般を断る → 塗装工事自体を勧めることが禁止になる。が、屋根修繕など別のリフォーム工事は勧誘できる。
- うちはリフォーム全般お断りだ → すべてのリフォームに関する勧誘はできない。
商談の段階で禁止されている行為
セールストークの段階でも再勧誘の禁止の問題は継続的に発生します。ですから断られたらそれ以上の再勧誘は禁止です。
また、契約欲しさのウソ偽りの勧誘ももちろん禁止行為です。
- 既に人手を手配しているからクーリングオフなどできない。
- この家には防湿剤が30セット必要だ(実は10セットで十分)
- 本来100万円だが、お宅はモデル工事として50万円で良い(実は50万円が標準価格だった)
- 今日だけは10万円の特別値引きができるが明日以降はできなくなる(実はいつでも割り引いている場合)
契約書は必ず受け取り、しっかり確認を
クロージング段階での義務や規制ですが、契約書面の交付義務(特定商取引法第4条、第5条)があります。
訪問販売により契約の申込を受けたときはその内容を記載した申込書面(第4条)を、契約を締結したときは契約書面(第5条)の交付が義務付けられています。
これは、物理的な書面で交付する必要があります。PDF等でのメール送信は認められません。
契約書の記載内容も法令で規制しています。主なものは、「販売業者名、担当者名、商品名、型式、数量、商品・役務の種類、販売価格、支払い時期方法、商品の引き渡し時期、クーリングオフについて、契約日、その他」などです。
これらは、正確な記載が必要ですので、屋号のみ記載して商号を書かないのは違反になります。
また、実態を変えたのに法人登記をせずに旧住所や旧代表者のままで記載するなども違法となります。
なおクレジット契約を組む場合は、クレジット契約書の定型契約書に型式や商標、製造者名の欄が無いものがありますが、これらがある商品の場合は書かないと違法になります。
「〇〇ペイント社製のAB外壁塗料〇〇コート」など、商標、型式、種類などがある場合、これらに漏れがないか確認が必要です。
特定商取引法の違反行為には厳しい罰則も
違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分、または罰則の対象となります。
もし契約書の不備、不実告知などがあれば、後述するクーリングオフ期間の8日が過ぎても契約解除の対象となります。
知っているようで知らないクーリングオフ制度
クーリングオフは法定書面(契約書)の交付を受けた日から8日以内ですが、交付初日から数えますので、数字的には+7日で考えることになります。
例えば3月1日(月)に書面交付の場合は、クーリングオフ期間は3月9日(火)ではなく、3月8日(月)までとなります。
つまり「曜日で対応する」と覚えておくと良いでしょう。
また、クーリングオフは発信したタイミングで解除効果が発生します。
ですので、業者に到着する日にちが8日間を経過しても問題はありません。あくまでも発信日が重要です。簡易書留や特定記録、内容証明郵便といった証拠の残る信書便で行うのが確実です。
法令上は書面の発信、いわゆる信書便(郵便など)と解釈されていますので、メールやLINEなどで連絡せず郵便で行うのが確実です。
またクレジット契約などを行う事例も多いかと思います。この場合は、クーリングオフ通知をクレジット会社に対しても行う必要がありますので忘れないでください。
外壁塗装でクーリングオフが適用されないケース
消費者が自ら請求した場合はクーリングオフできない
消費者が自ら請求した場合はクーリングオフの適用対象外となります。
これは消費者が自ら契約する意思をもって事業者を自宅などに呼び出して契約をした場合になります。
良くあるのが、見積りで自宅に来ていただいた。後日見積書が届いた。それを確認してこの内容で良いから契約したいと塗装業者を自宅に呼ぶケースがあります。
このような場合は、自ら請求と考えられますからクーリングオフ対象外となります。
またショールームや営業所、店舗などで契約をした場合も原則クーリングオフの対象外となります。
ショールームでの契約はきちんと納得のうえで
外壁塗装業者のショールームは一般的に営業所と考えられます。よってこの場所で契約をしますと、クーリングオフの対象外となります。契約後は容易に解約はできなくなります。よってじっくり検討し安易に契約をしないことが肝心です。
特定商取引法は頻繁に改正されている
特定商取引法は頻繁に改正されており、以前は問題視されていないものでも、現在では規制対象となっているものもあります。
①過量販売の問題
これは、高齢の姉妹に対して何度も何度も不必要な訪問販売契約を行っていたという事件から問題視されたものでして、2008年の改正で特定商取引法第9条の2として規定されました。
訪問販売により過量販売契約を締結した場合は、個別の勧誘行為の内容や、消費者の意思表示の瑕疵などの証明することなく解除できるというものです。
公益社団法人日本訪問販売協会では自主的な基準として過量販売の基準を定めています。
http://jdsa.or.jp/quantity-guideline/
②適合性に反する勧誘(特定商取引法第7条1項5号)
消費者の知識、経験および財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うことを禁止するもの。
例えば年金だけで暮らしているお年寄りに対し、支払い能力を超える高額な契約をさせてはいけないというものです。
また、高齢者契約の自主的な親族確認の問題。判断力の不足に乗じた勧誘(特定商取引法第7条1項5号)
これは老人その他の者の判断不足に乗じ、訪問販売に係る契約を締結させることを禁止するものです。
すべての老人イコール判断力不足ではないですが、75歳以上の後期高齢者などには親族の了解を得るよう自主的に行っている優良事業者もいます。
リフォーム工事のクーリングオフ事例
行政書士の先生が携わったリフォームのクーリングオフ事例をご紹介いただきました。
高齢者へのリフォーム工事のクーリングオフのケースでした。
契約書には内容を理解しているとか、不実告知は受けていないとか、氏名等をきちんと名乗っていたか? 契約に強引なものはなかったのかなどのアンケートが載っており、全部「はい」となっていました。
ですが実際には、勧誘担当者の面前で、文字も細かくよく読めないので読みもせず言われるがままに〇をつけさせられたのが現実でした。たまたま息子さんが連絡を受けて、すぐに契約書を見たために解除に動くことになりました。
このケースでは、息子さんを代理人として書面作成を行いました。クーリングオフ後の事務連絡なども息子さんに行くようにすることで、妨害なども防げた事例です。
知って役立つクーリングオフの豆知識
「訪問販売お断りステッカー」は有効?
「訪問販売お断り」など、いわゆる「お断りシール」がありますが、これだけだと何を断っているのかの特定が無いために「勧誘された=違法」というには範囲が広すぎます。
そこで、寝具関係、新聞、水道関係、リフォーム関係お断りなど、ある程度特定できるレベルで指定しておくと法的に効果があります。
ただ条例などで、こういったシールを貼っているお宅への訪問を違法としているところもありますので一定の効果はあると考えられます。
消費者問題に取り組んでいる自治体の情報もチェック
自治体で訪問販売業者の登録制の取り組みを行っているところもあります。
たとえば、滋賀県野洲市では訪問販売をするには登録をする必要があります。
https://www.city.yasu.lg.jp/jigyosha/1475049433454.html
登録をすることで、消費者は本当に実在する業者か判断が取れますし、業者も法令を守っている業者だとPRすることができます。また行政にとっても区域内の訪問販売業者を把握することで、トラブルを回避しやすくなる、三方良しの制度だと思います。
また水回りや鍵の閉じ込めなどは苦情が多い業界ですが、東京都では水道工事の指定事業者リストを掲載しています。
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/shitei/ichiran.html
この他にもインターネット検索などで出てきますが、このような自治体などで出しているデータを知ることでトラブルを未然に防げるかもしれません。
おわりに
クーリングオフを専門とする行政書士の先生にお伺いした、外壁塗装におけるクーリングオフや特定商取引法のポイントについてまとめてみました。
クーリングオフは適用の条件の判断が難しい場合もあります。不明・不安な点があれば地域の消費生活センターや、専門家に相談していただくことをおすすめします。正しい知識を身に着け、信頼できる塗装業者に満足できる外壁塗装を行ってもらいましょう。
監修者プロフィール
行政書士 吉田安之(東京都行政書士会多摩中央支部所属)
クーリングオフ行政書士事務所 所長
悪徳商法研究29年。行政書士事務所として22年間 悪徳商法被害救済業務に携わる。
1998年吉田行政書士事務所(現クーリングオフ行政書士事務所)開業
悪徳商法被害救済業務を行政書士として初めてインターネット上にて開始。
現在、扱った事例数は86,000件を超え、解約成功者も6,600名を超す。
現在
東京都行政書士会多摩中央支部副支部長
小金井市消費生活審議会委員
行政書士青年協議会会長
特定非営利活動法人消費者機構日本個人正会員
消費生活専門相談員
法政士業の会 理事 広報委員長
クーリングオフ行政書士事務所ホームページ
https://www.coolingoff.jp/